チャーリー・パーカーの映画

June05 [Mon], 2006, 4:20

  BIRD(1988年アメリカ)

  出演:フォレスト・ウィティカー
     ダイアン・ベノラ
  監督:クリント・イーストウッド

伝説のアルトサックス奏者、チャリー・パーカーの生涯を、ジャズをこよなく愛するクリント・イーストウッドが映画化。
この映画の凄いところは、全編に渡って流れる「チャーリー・パーカーの音楽」である。

チャーリー・パーカー(愛称は「バード」)の音は、彼以外の誰にも出すことはできない。
もし、映画に流れる音が、パーカー・スタイルの誰かの音だったら、それはもうバードの映画ではない。
バードを聴かずして、バードを知ることは不可能だからだ。

しかし、1955年に34歳で死去したチャーリー・パーカーが活躍していたのは、まだステレオ録音が普及する前の時代である。
そこで、残された個人蔵を含む貴重な音源から、チャーリー・パーカーのサックスの音のみを抜き出し、他の楽器パートは新たに録音し直して重ね合わせ、見事に「バードの音楽」をステレオで再現することに成功した。
ライブのシーンなど圧巻である。
この映画は88年のアカデミー録音賞を受賞している。

映画館で一度、DVDで何度か観ている。
土曜の深夜にNHK-BS2で放送があり、つい明け方まで見入ってしまった。

音楽と麻薬と酒に溺れ、実際にはもっと破滅的な人間であったろう天才バードの姿を、苦しみを抱えた愛すべき弱き人間として描いている。
終始いつも悲しそうな、たとえ笑っていても悲しそうに見えるフォレスト・ウィティカー。バードその人もこんな風に泣きそうな顔で笑ったのだろうか。

共にビパップの時代を創った盟友ディジー・ガレスピーが、夜の海辺でパーカーに「秘密」を打ち明けるシーンが胸を打つ。
音楽とはかくも残酷なものなのだ。

鳥のように。
自由に飛ぶことを許されたかわりに、飛ぶこと以外は望みもしなかった。力つきて墜落するまで。

…なんてことは考えず、ひたすらに空を舞い踊るようなバードの音に、胸を熱くする。
ただそれだけでいいと思う。