何年か前、北海道の根室で「サテンドール」というジャズ喫茶に入った。
根室の街にはロシア語の標識がたくさんある。
本土最東端、納沙布岬からは、貝殻島、水晶島が肉眼でくっきり見える。
中標津の空港で借りた車には、CDプレイヤーしかついていなかった。
荷物には、張り切って作った大量の編集テープとMDしか入ってない(泣)
CDを求めて根室市街にあるジャスコに行くが、扱っておらず、近くの時計屋さんに行けという。
時計屋さん?
メモにかなり怪しい地図を書いてもらい…
あった!時計店!「CD」の看板!
本日定休日
…わーん
そこで、ジャズ喫茶に行くことにしたのだ。
ここならCD店を教えてもらえると思って。
店には他に誰もいず、入り口ドア付近におそるおそる座る。
正面の壁には、マイルスのポスターが貼ってある。
店の奥にある大きなスピーカーから流れていたのは、
キース・ジャレットの「ケルン・コンサート」だった。
ケルン・コンサート / キース・ジャレット
(1975年録音)
言わずと知れた名盤。
が、CDは持っていたものの、あまり聴くことがなかった。
コーヒーを飲み、CD店を尋ねてすぐ出るつもりが、
流れてくる音のあまりの素晴らしさに、席を立てなくなった。
スピーカーが、店の雰囲気が、音を聴く環境が違うだけで、こんなに違って聴こえるのか!
驚いた。
今までまったく聴いていなかった音、タッチがよく聴こえてくる。
澄み切った一音、一音が、無二の音楽を形作っている。
入り口近くの窓から午後の日射しが入り、空気中に舞うほこりがきらきらと光っている。
真夏なのに、ドアから入ってくる涼しい風。
上質な音で聴くケルン・コンサート。
しん、とした店内に、研ぎ澄まされたピアノの音が響く。
それまでの、キース…、という傲慢な感想が完璧に吹っ飛んだ。
文句なく素晴らしい演奏だった。
~
お店の人にきき、車で少し行った先のツタヤで、CDを何枚か買った。
ケルン・コンサートは置いていなかった。